Mag-log inテレビを見たり、雑談に興じたり。だらーっと休日を満喫してると、そろそろいい時間に。
いやー、誰かと一緒だと、時間が経つのが早いねー。
「さーて、サンマでも焼きますかー」
「わたしがやりますよ」
あ、そうだ。彼女が焼くって言ってたね。
「私は、頭、ワタ取り派だけど、ハルちゃんは?」
「わたしは、両方付きが好きですね」
ほむ。
「じゃー、大根は私が擦るから、サンマは任せちゃうね!」
「ドンと任せてください!」
庶民派お嬢様の、心強いお言葉。
というわけで、作業分担。
「やっぱり、ハルちゃんちのキッチンって広い?」
「そうですねー。大勢のお客様を、もてなすときも多いですから」
「立食パーティーとか?」
桂剥きをしながら問う。
「いえ、立食パーティーはめったにないですね」
「へー。アニメなんかだと、お金持ちのパーティーって立食のイメージが強くて」
「そうなんですかー」
でも、考えてみたら、お金持ちが立ちんぼで飲み食いとか、たしかに変といえば変よね。
二人で手際よく、それぞれの料理を作っていく。
ほんとに、隣のこの子が、大企業のお嬢様だなんて思えないぐらいの、料理上手で。
「あー、いい匂い。サンマの焼ける匂いって、サイコーよねー」
「そうですね」
ほんとは、炭火がいいんだろうけど。うち、ガスしかないからね。
……でっきあっがりー!
「美味しそうだねー」
「おねーさんの大根おろしも、美味しそうです」
お酒を呑むつもりなので、ご飯は炊いていない。大根おろしごはんってのもオツなんだけどね。
あとは、お酒にお猪口、予備の乾き物なんかを並べてー……。
「いただきます!」
合唱&合掌。
「なるべく良さそうなの買ってきたけど、ハルちゃんの舌に適うかなー?」
お酌しながら、ちょっと恐縮。だって、一本何万のワイン呑んでそうなイメージなんだもん。
「いえいえ! おねーさんのご厚意が、なにより最高の味ですよ!」
あら、嬉しいこと言ってくれちゃって。
「乾杯!」
お猪口を掲げ、つつ、といく。くーっ! イイ!
「美味しいです!」
お世辞ではなさそうな、ハルちゃんからのお言葉。
「遠慮なく呑んでねー」
「ありがとうございます!」
こうして、箸とお酒が進んでいく。
ああ、サンマ美味しい……。絶妙な焼き加減だ。
「おうちで、サンマとかよく食べるの?」
「えーと、その、まあ、それなりに……」
へー。結構庶民的なものも食べるのね。……なんて考えちゃうのはイヤミかな。こういう考え、良くないね。でも、彼女も少し、なんか言い淀んだような? 気のせいかな。
「ハルちゃん、お嫁さんにしたいなー。美味しい手料理、作ったり、作られたりしたーい」
ありゃりゃ。さっそくお酒が回ってきたらしい。何か、我ながら変なこと言ってるー。あははは。
「わたしも、おねーさんに嫁ぎたいです~」
頬が桜色に染まったハルちゃんも、上機嫌で返す。ああ、やっぱ、ひとり酒より誰かと呑んだほうが楽しいねー。
談笑しながら、食べては呑み、呑んでは食べ。乾き物にも手を付けていく。
「あ、お酒なくなっちゃった」
ハルちゃんにお酌しようとしたら、ひとしずく出て打ち止め。
「でも、あんしーん! うちには秘蔵っ子があるのよー。今度は、ビールいこう!」
クラフトビールを呑むのが、私の愉しみの一つ。
秘蔵っ子たちを、冷蔵庫から引っ張り出す。
「さ、も一度かんぱーい!」
「はーい、カンパーイ!」
こうして、完全に出来上がっていく私たちでした。
◆ ◆ ◆ 翌朝。頭が痛い……ちょっと、吐き気も。そして、何よりハルちゃんともども、ネイキッドでお布団に転がってました……。またやってしまった……。酒癖の悪さに自己嫌悪。とほほ。
とりあえず、二度寝しよ。
◆ ◆ ◆ 「……きてください!」んー?
瞼を開けると、服を着たハルちゃんに、ゆさぶられてました。
「おはよー」
「おはよーじゃないですよ。もう、こんな時間ですよ。あたた……」
側頭部を押さえる彼女。
「ハルちゃんも、二日酔いかー」
時計を見ると、お昼近く。さっき起きたとき、そのへんに乱雑に脱ぎ散らかしてあった服は、ハルちゃんが畳んでくれたようで。食器類も片付いている。
「ごめん、ちょっと向こう向いてて」
今更照れる関係でもないけど、まあ、エチケットとして。
彼女は、言われたとおり、くるりと反対を向いてくれました。
「わたし、あんな泥酔したの初めてです」
「でしょうねー。ハルちゃんのうち、ハメ外すとか考えられないもん」
着替えながら、相槌を打つ。
「これが、二日酔いなんですね。おねーさんと出会ってから、いろんな初体験しまくりです」
「あはは……。その、奪っちゃってゴメン。ほんとに」
「いえ、ステキな体験でした。初めてが、おねーさんで良かったです」
なんだか、変なムード。
「OK。こっち向いていいよ」
再度、こちらをくるりと向く。
「とりあえず、買い出し行こうか。お腹ペコペコ」
「そうですね。私も、ペコペコです」
そんなわけで、ハルちゃんにもメイク道具を貸してあげつつ、私もメイク。駅前のスーパーへ、てくてくと歩いて行くことに。
「きょーうは、なーににしよーかなー♪」
大根が残ってるから、煮て良し、大根おろしご飯にしてよし。大根おろしご飯が、二日酔いには良さそうかな。
「おねーさん、このイワシ良さそうですね!」
「へー、たしかにこれ良さそうだね。ハルちゃん、目利きできるんだ」
「ミドリさん仕込みです!」
えっへんと胸を反らす彼女。ほんとに、お師匠さんなんだねー。そんな彼女と、引き離されたのか……。
「秋といえば、栗よね。栗ご飯作ろっか」
「はい!」
さらば、大根おろしご飯。また今度~。代わりに、お味噌汁になってね。
こうして、遅い朝ごはん兼、昼ごはんの内容が決まっていく。
そして通りかかるは、アルコールコーナー。
「チョットだけね」
と言いつつ、クラフトビールをかごに入れる。私の辞書に、自制心の文字はないようです。
「そういえば、お仕事するにあたって、そろえるものってあります?」
「あー、そうだね! 履歴書買っていこう! あと、外で証明写真も」
とりあえず、履歴書をかごへ。
「夜は、何にしようかなー。きのこスパゲッティーでも作ろっかな」
「昼と夜、逆のほうがよくありません?」
たしかに。
「気が利くねー、ハルちゃん。あとは、パンと牛乳とおせんべいを……。こんなもんかな?」
というわけで、お会計を済ませた後、ハルちゃんの写真を撮影。
「チョット表情が堅いけど、まー、おーけーかな!」
「うわー、どきどきしますー!」
安泰な生活を蹴って、私とともに歩もうとする彼女。会って二日で、こんなに意気投合するなんてねー。彼女とは、何かと波長が合うんだなあ。
この先、変な波乱が、もう起きないといいけれど。
ともかく、帰ってご飯にしますかー!
ひゅうと、秋風が紅葉の葉を運びながら、私の頬をなでていく。 思えば、ハルちゃんと出会ってから、ちょうど一年か。「どーしたんです、おねーさん?」 恋人つなぎで、庭を一緒に散歩していた彼女が、声をかけてくる。 庭では、紅葉の葉が紅に染まっていた。「ん? 出会ってから、ちょうど一年だなあと思って」「もう、そんなになるんですね。大人になると、時間の過ぎ方があっという間になるっていいますけど、ほんとなんですね」 ハルちゃんも、目を細めて、柔らかくなった秋の日差しを見上げる。「あのときは、びっくりしたよ。朝起きたら、私もハルちゃんもネイキッドで寝てるんだもん」「あはは。本当に、お姉さんのワザ、ステキでした」「もーう、そういうこと言わないの。恥ずかしいじゃない」 口をとがらせて拗ねると、彼女が一層、愉快そうに笑う。「会長令嬢と知った時は、愕然としたっけなあ。まるで、漫画のヒロインかと思ったよ」「漫画のヒロインって、そうなんです?」「ものによってはね。それにしても、警察だの吾文さんだの押しかけてきた時は焦ったなあ」 愛しの彼女に、そっと肩を寄せる。「あの頃は、まだお父様と仲が険悪でしたからね」 彼女も、肩を寄せてきた。「お父様が倒れられて、幸か不幸か、父娘仲が改善しましたけど。……いや、幸と言っちゃいけないですね。でも、お父様、ずいぶん丸くなりました」「そうだね」 私も、ずいぶんな言われようをしたっけ。「そのしばらく前だよね。ミドリさんとハルちゃんが、ばったり再会したのは」「はい。あのときは、心臓が爆発しそうでした。二度と会えないと思っていたミドリさんが、眼の前にいるんですもん」 あれは本当に、偶然に偶然が重なった。たまたま映画を見に行って、たまたまピアノを弾いて、たまたまミドリさんが聴いていて。「おねーさんが必死にミドリさんを止めてくれて、助かりました。おねーさんがいなかったら、ミドリさんは私の手から、するりとすり抜けてしまうところでした」「詩的な表現だね」 詩といえば、ハルちゃんとユキさんは、デビューに向けて、仕事と両立しながら、必死に頑張ってる。すごいな。「ありがとうございます。でも、まさか公式二股とか、おねーさんから言い出すとは思いませんでしたよ。さすがに、びっくりしました」「あはは
結果発表をまんじりともせず待つ日々。公式HPによると、審査が長引いているらしい。 仕事を終え、バスの中でツイスターを見ると、ついに結果発表が! 急いで公式HPに飛ぶと……最優秀賞……じゃない、優秀賞……でもない。じりじりと不安な気持ちで、画面を下にスクロールしていく。 あったあああああああ!! 審査員特別賞! たしか、募集時にはなかった賞のはず。賞金なし。プロデューサーがつき、デビューに向けてサポートします……だって。うーん、急遽設けられた末席かあ。 ちょっと残念な気持ちで帰宅すると、ハルちゃんとミドリさんが、笑顔で出迎えてくれました。「ちょっと惜しい結果だったね。もっと上、狙えると思ってたんだけど。でも、入賞は入賞だ!」 励ますつもりでそう言うと、「何仰るんです! 大金星ですよ!」と、聞き覚えのある声が。 ハルちゃんのスマホからだ。「だそうですよ、おねーさん!」 笑顔で画面を向けてくるので見てみると、興奮気味なユキさんが映っていた。「あのですね。賞レースの世界で、初めての投稿作が入賞なんて、自分で言うのもなんですけど、天才の所業ですよ!?」「そうなんですか?」「はい! 私も、小説賞で一次選考での落選を、何度繰り返したかわかりません。……初めての受賞が、小説ではなく歌っていうのがあれですけど、万々歳です!!」 へー。「これをお父様に伝えたら、今度こそ、心の底から喜んでくれてですね! 今度の日曜、真の祝賀会をしようって話になりました!」「おおー! おめでとう!!」 大学を続けるかどうか悩んでいた、ハルちゃん。思い切って音楽の道に進んだわけだけど、ピアノ講師以外の道も見えてきたわけだ。「いやー、印税でウハウハになったりするかなー?」 なんて青写真に思いを馳せていると、「いや、それは夢見すぎですね」と、一転して冷静なユキさん。「少なくとも小説だと、受賞後デビューしても、働きながら、副業として執筆活動する人がほとんどです」「意外と、渋い世界なんですね」「ですよ。売れっ子なんて、万に一人……いや、それ以下の選ばれし人なんですよ。音楽も、同じだと思いますよ」 ほんと、厳しい世界なのねえ。でも、地方公務員も、世間様が思うほど恵まれてないから、そんなもんか。「まあ、何にしても祝賀会楽しみですね!」 ウ
「ただいま戻りました~」 今日も、お仕事頑張ったー! というわけでお屋敷に戻ると、ハルちゃんとばったり出くわした……というか、待ち構えていて、「おねーさん!」と、子犬のように抱きついてきました。 季節も春になり、福祉課自体は変わらないけど、別地区の担当になりました。こうしないと、不正する職員、悲しいけどたまにいるからね。実際、昔、岡山で問題になったらしい。「危ない、危ない! どーしたの、そのテンション?」 危うく倒れ込みそうになり、彼女を制する。「すみません。それでですね! 完成したんですよ、歌が!」 そういえば、そろそろ締切だっけ。「おー、そりゃめでたいね! ハルちゃん、頑張った!」 頭をなでてよしよしすると、「えへへ~」ととろけるお嬢様。かわいい。「吾文さんも、さぞ喜んでくれたでしょう?」「それがですね、『まだ入賞したわけではない。気を引き締めなさい』って塩対応で、お母様に、『こういうときは、素直に祝ってあげてくださいな』って、たしなめられてました」 はは。本当に、不器用な父親だなあ。大病して以降、ずいぶんカドが取れたんだけどね。「でもとりあえず、祝賀会を開こうって言ってくれて、お屋敷のみんなでパーティーすることになりました!」「おー、そりゃ楽しみだねえ!」 吾文さんも、リハビリのかいあって、杖が必要だけど、少しは歩けるようになっている。「はい! もちろん、ユキさんも招かれてますよ」「いつやるの? さすがに今日じゃないよね?」「今度の日曜です!」「りょーかーい! ところでお風呂入りたいな」「じゃあ、一緒に大浴場行きましょうよ!」 目をキラキラさせる彼女。「ミドリさんは、まだお仕事?」「はい」「じゃあ、お風呂はハルちゃんと二人っきりかあ~」 ひさびさかな、これも。 というわけで、楽しく流しっこするのでした。 お腹も空いてるし、さすがにリスキーなので、それ以上はしなかったけどね! ◆ ◆ ◆「今日は、不肖の娘、ハルが……」「あなた、ハレの場で、娘を不肖などというものではないですよ」「こほん。我が娘ハルが、賞向けの歌をご友人と完成させた記念に、気が早いが、祝賀会を開かせてもらった。日頃の奉仕に報いる意味もあるので、今日は大いに呑み、食べ、楽しんでほしい」 奥様に、最近ツッコミを入れられがちな吾文さんの挨拶
どうも、最近オフは、やることがなくていけない。お掃除もお洗濯も、メイドさんたちがやってくれるしなあ。かといって、またメイドイン私……逆か。ま、それはちょっと辛いと理解できた。 というわけで、競馬中継など見ていたわけだけど、スターランサーが有馬で怪我し、療養中になってしまった。予後不良とかじゃなくてまだよかったけど、寂しいな。 もう一頭の推し、マリアージュベーゼも、パッとしない戦績が続いている。さっきも、六着に終わったところだ。高松宮では、ビシッと決めてほしいけどなー。 なんとも、気が沈みますなあ。 なんか、今日は視聴気分じゃないや。そういや、今日ミドリさんオフだっけ。たまには、ハルちゃん抜きでミドリさんと絡んでみようかな?「ス~マ~ホ~!」 某猫型ロボットの物真似をしながら、コール。「はい? どうされました?」「いやー、手持ち無沙汰だし、メイドさんのお手伝いは、私には無理だと悟ったんで、たまにはミドリさんと、なにかしようかと」 首筋をもみながら、提案する。テレビばっか見てたら、首凝っちゃったよ。「そうですね……読書も、目が疲れましたので、小休止中でして。構いませんよ」「じゃあ、とりあえず、私の部屋で」「かしこまりました」 冷蔵庫から炭酸水を取り出して飲んでると、ノックとともに「私です」と、ミドリさんの声が。「いらっしゃ~い。入って、入って!」「お邪魔します」 彼女が入ってくる。「さーて、ミドリさん。呑みましょうか!」「ええ!? 唐突ですね? というか、屋敷のお酒を勝手に開けるわけには……」 高級酒ばかりですもんね。「ノンノン。私の私物~。自分用に、こつこつ買い溜めてるんですよ」 と、クラフトビールを二缶出す。「おつまみも、ありますよ~。いきましょうよ!」 乾き物を、色々取り出す。「そうですね、久しぶりにこういうのも、悪くないかもしれません。お嬢様がいらっしゃらないのが、残念ですが」「一時間ぐらい前、ピアノ室覗いてみたら、ユキさんとかなりガチな話してましたよ。邪魔しないほうが、いいかもしれませんね」「左様ですね。では、二人で呑みましょう」 「そうこなくっちゃ!」と、ビールグラスを出し、慣れた手付きで注ぐ。美味しさを引き立てる白い泡が、シュワッと膨らむ。「乾杯!」 グラスを打ち鳴らし、ごくごく。
こんこん、がちゃ。ハルちゃんの部屋……。いない。 ピアノ室かな? てくてく……こんこん、がちゃ。ビンゴ!「ハールーちゃん。競馬見ーましょ」「すみません、おねーさん。今、取り込み中で」 スマホからも、ユキさんの声が聞こえる。作曲中か……。 ハルちゃん、曲自体もあれからブラッシュアップするとのことで、ピアノ室にこもることが多くなっている。 ミドリさんは仕事中でしょ。だからって、休日まで同僚とつるみたくないしなあ。 私にも、楽才なり詩才なりあったらな。ハルちゃんとユキさんの間に混じれるのに。 ただ食客やってるのもあれだし、今日は皆さんのお手伝いでもしますか!「ミドリさーん」 とりあえず、取っ掛かりとしてミドリさんを捕まえ、呼び止める。「はい、なんでしょうか」「私、暇を持て余してまして。で、ただ食客やってるのもアレだし、お手伝いしようかなあ、なんて」「ありがたいお話ですが、私の一存では決めかねますので……メイド長に、話を取り付けましょう」 というわけで、メイドさんたちが、わらわらとたむろしてお掃除している、エントランスへ。「……というわけなのですが」「なるほど、ありがたいことです。でもその格好では……余ってるメイド服、召されてみますか?」 おお! リアルメイド服! まさか袖を通す機会が訪れるとは。「はい、ぜひ!」 そんなわけで、更衣室へ。おお、これがメイド服! 何かワクワクするな!「おまたせしました」 着替えて、しゃらららん。「ではさっそく、拭き掃除をお願いします」 と、水入りバケツと雑巾をメイド長から手渡されました。 おっほう! さっすがメイド長! 着替えたてホヤホヤのボランティアにも、容赦なしですね! 彼女が、葵家の秩序を守っているのだなあ。「あの、メイド長さん」「長野と呼んでください」 おさの、おさの……あれ?「ひょっとして、シェフ長の……」「はい、彼は夫です。それで、ご質問は?」「あ、はい。ええと、どのあたりを中心に拭けばいいですか?」 メイドさんたちがめいめい動いているので、文字通りどこまでクリアされてるか、わからないのだ。「でしたら……」 と、結構な広範囲を指定される。うっひゃ~! でも、自分で言いだしたことだもんね! やるぞー! ◆ ◆ ◆「みなさん、休憩にしま
「お父様、わたし、作曲の賞に応募してみようと思うんです」「おお、そうかそうか。お前も頑張ってるのだな」 万年筆を右手に持ち、自室でハルちゃんの報告を聞く吾文さん。リハビリのため、文字を書く練習をしていたらしい。何十字もの「あ」や「い」で埋め尽くされた紙が見える。 かつての彼はそこにはおらず、娘同様努力する、人当たりのいい、おじ様がそこにいた。「それで、お父様にも試聴していただきたくて……。音楽、かけてもいいでしょうか?」「いいとも。聞かせてくれ」 ハルちゃんが、ファイルを再生しながらスマホの音量を調節する。「……いい曲だ。これだけで応募できるんじゃないか?」「いえ、作詞も必要で……。わたし、作詞はからっきしなので、ミドリさんのご友人のご助力を、いただいているんです」「ほお……」 筆を止めず、同時に話を聞くという器用なことをしながら、感心する彼。「そういえば、奥様のお姿が見えませんね」 いつもなら麗さんのいる席で主人の世話をしている辻さんを見て、ミドリさんが素朴な疑問を口にする。「今日は、一日羽根を伸ばしてもらっている。オレの世話で、ずっと苦労させっぱなしだったからな」 吾文さん、ほんとに丸くなって……。「そういえば、ハルも紅さんも、皆に混じってまかないを作ってるんだったかな?」「はい。わたし……こういう言い方は失礼ですけど、アキさんと共同生活して、世間様の暮らしを体験しました。それで、わたしもぬるま湯に浸かっていてはいけないと思うようになったんです。もっとも、衣と住に関しては、贅沢させていただいてますけども……」 とはいえハルちゃん、オフの日は率先してメイドさんたちの仕事を手伝っている、パワフルさんだ。「ならば、食も遠慮せず、食べなさい。その、夏野には他の使用人の手前、それはさせられないが」 つ、と、頷いて肯定するミドリさん。「それが嫌なんです。私にとってミドリさんの手料理は……こういう言い方よくないですけど、母の味ですし、彼女と同じものを食べたいんです」「ふむ……」 吾文さん、筆を一旦置き、左手で顎を撫でながら、思案する。「なら、慰労会を開こう。屋敷の者、全員参加のパーティーだ。そこでなら、夏野も遠慮は必要あるまい」「よろしいのですか!?」 びっくりミドリさん。「いいともいいとも。考えてみれば、がむ







